繰上げ・繰下げ

 国民年金を65歳より前に貰い始めると年金は減額され、あとに貰うと増額されると言うのはよく知られていることみたい。ただ、60歳から貰う厚生年金は、今のところ繰上げ・繰下げはない。勤務中だから裁定請求しないで、退職したら裁定請求をしてそれまでの年金をまとめてもらおうなんて考えている人もいるようだが、65歳までの厚生年金は、あくまで経過措置で支給されているので(だから特別支給の厚生年金というのです)、いつ請求しようが過去にさかのぼり、その時点で厚生年金に加入している給与所得者であれば、年金は在職老齢年金として計算されてしまう。だから60歳で裁定請求書を提出しておくほうが、添付書類もわかりやすくていい。
 繰下げの時に、それまで貰っていたのは厚生年金だから、今までどおりの年金を貰って、国民年金分は増やそうと考える人も中に入るが、それまで貰っていた厚生年金は、報酬比例分と定額部分の合計額。この定額部分と言うのは、会社にいた期間に対しての国民年金分を、厚生年金のほうから肩代わりして支給しているだけだから65歳になればこの定額部分は出ない。65歳からの国民年金(基礎年金)を止めれば、厚生年金は報酬比例分だけになるから、現役世代と変わらぬ収入を得ている人でもなければ生活は大変だろう。
 70歳をすぎた奥さんが来て、ご主人の年金があまりに少ないので理由を聞きに来た。ご主人は75歳。実は国民年金の繰下げをしていて、そのあと受給請求を忘れていたのだった。この年代の人だから、5年間据え置いた国民年金は、1.8倍ぐらいに増額されていた。しかし70歳で請求したとみなしてさかのぼって支払われることはない。あくまで請求月の翌月からの支給になり、この人はまるまる5年間の年金をふいにしてしまった。もちろんさかのぼれないわけではないが、その場合には、65歳から貰ったのと同じ金額で計算され、65歳から70歳までの分は時効消滅。なんだか不親切な制度だが、年金はあくまで自分で請求するものということなのでしょう。